とまりぎ亭とは


ここはとある隠れ宿《とまりぎ亭》。閑静にして風光明媚、絵描きや作家が好んで長期滞在しアトリエとしても利用するその旅館は、一人の女主人と一匹の猫、そして一羽の鳥によって切り盛りされている――

翡翠~、ニオ、おなかへった……

今朝カリカリ食べたでしょう?

でもおなかへったんだもん。こないだお客さんが言ってたよ? 朝ごはんと晩ごはんの間には“お昼ごはん”っていうのがあるんだって。ニオもお昼ごはん食べたい。

(むむ。ついに気づかれてしまいましたか。この様子では、おやつの存在に気づかれるのも時間の問題ですね)

仕方ないですね。特別に私のおやt……じゃなかった、とっておきのたいやきを分けてあげましょう。ゴイちゃんと半分こして食べるんですよ。

わーい! ニオたいやき大好き。

いいのか翡翠。「ニオがこれ以上育ったら困る」と言ってたじゃないか。

もう手遅れかもしれません。昨年拾った時は確かに、どこにでもいる普通の子猫だったのに。

文字通り猫っ可愛がりしすぎたな。あちこち立派に育ってしまって。

育ちすぎでしょう。もはやカロリー制限でどうにかなる次元でしょうか、これ。

そもそも生物学的にありえるのだろうか。

流暢にしゃべる鳥の妖怪に言われても……

十年来の付き合いで今更そこをツッコむのか!?

じー……っ。

む……? どうしたんだニオ、そんなに見つめて。

ニオ賢いから気づいちゃったんだ。ゴイちゃんとわけっこしたらお昼ごはんはたいやき半分だけど、ゴイちゃんを食べればごはんはたいやき一匹におかず付きだって……じゅる。

ひ、翡翠、翡翠~~~っ!!!? 助けてくれ、吾輩ぺろりといかれちゃう。

やれやれ。いいですかニオ、今ゴイちゃんを食べたら、ぺろりとおかず一食分です。だけど我慢してもっと大きく育てれば、二食分にも三食分にもなるんですよ。

そっかー、なるほどなー。じゃあ今は我慢する! ニオもごはん食べておっきくなったもん……ね…?

あ……え……やっぱりこのたいやき、返す……ね……

違う違う違う。食べないから。ニオはおかずじゃないから食べていいんですよ。

(吾輩は!?)

よかったー。じゃあほら、はんぶんこしよ? めりめり~。

吾輩そこそこ長く生きてるけど、たいやきをはんぶんこするとき背中から裂いて二枚におろすやつ初めて見た。

たいやきの頭としっぽどっちかしか選べないなんて、そんなザンコクなことニオにはできないよ。

ニオはひよこ饅頭も躊躇なく眉間から割りますものね。私にしてみれば、そちらのほうがよほど残酷ですが。

そもそも吾輩の目の前で鳥の形のお菓子を嬉々として食べることに心は傷まないのか?

はーい、ゴイちゃんの分! ニオのためにいっぱい食べて大きくなってね? おいしい?

う、うむ。うまいぞ(とんでもない問題が先送りされただけのような気がする)。

えへへ、ニオもおいしい。

……しかし、食費の問題は実際深刻ですね。もともと一人と二匹の計算だったのが、二人と一匹になってしまったわけですから。

宿泊料を値上げするわけにもいきませんし、何か方法があるといいのですが。

――どうやら来客のようだぞ。翡翠、先のことを悩むより、まずは目の前の仕事からだ。

ごめんください。

ようこそいらっしゃいませ、《とまりぎ亭》へ。当亭の主人、翡翠がご案内をつとめさせていただきます。本日はご宿泊をご希望でしょうか。

ええ。ちょっと事業のための人を集めにこの辺りに立ち寄ったんですがね、なかなか見つからなくて。今夜はここで一休みにしようかと。

ねぇねぇ、お客さま。お客さまはどんなお仕事をしていらっしゃるの?

ゲームを作るお仕事だよ。うーん……美少女ゲーム、と言ったらわかるかな?

…………?

要するに、みんなのオカズを作るお仕事だな。

へぇ~、お客さますごい!! わたしニオ、こっちはゴイちゃん。ゴイちゃんはニオのオカズなの。

へ、へぇ……いいんじゃないかな。性癖というのは本当に奥が深いね。

美少女ゲーム……というと、イラストレーターやシナリオライターをお探し、ということでしょうか。

ええ。できればディレクターやスクリプターも。いい作品を作りたいんですが、人手が足りなくて。

そういうことでしたら、ご宿泊以外でも当亭がお力になれるかもしれません。

《とまりぎ亭》は開業以来、縁故ある創作家を招き、制作に打ちこんだり、あるいはひととき羽を伸ばすための長期逗留所としてご利用いただいております。

現在当亭には、ゲーム制作のお仕事で知り合われた方々が互いにお誘い合わせのうえ逗留されています。

差し支えなければ、当亭が仲介してご紹介させていただきますが、いかがでしょうか。

本当ですか!? それは助かります。

ニオ、お仕事を紹介していいか皆に聞いてきてくれますか?

はーい。

では、お部屋にご案内しますので、ご依頼内容についてご検討ください。

お決まりになりましたら私、翡翠までお伝えいただければ承ります。御用の際にはこちらのアドレスからお呼びつけくださいませ。こちらから各作家に取り次がせていただきます。

ご依頼フォーム

同時に複数の作家にご依頼になりたい場合は、《とまりぎ亭》受付宛でご相談いただけますと幸いです。

おまたせ! 今おしごとを受け付けてる人の名簿を持ってきたよ! ニオ、えらい?

作家一覧

各作家のお仕事情報など、最新の情報は《とまりぎ亭》Twitterアカウントでつぶやいているぞ。

Twitter

より詳細な告知をご覧になりたい際は、Ci-enをご参照ください。

Ci-en

いただいたご支援は逗留作家のサポートに充てさせていただきます。

ご案内は以上となります。ご質問、ご要望などございましたら、《とまりぎ亭》受付までお問い合わせください。

お問い合わせ

それではどうぞ、ごゆっくりお過ごしくださいませ。

ありがとう。これから部屋でのんびり依頼内容を検討させていただきます。

……お仕事できたら、いっぱいたいやき食べられる?

ああ。いっぱいおやつを買ってもらえるといいね。

……? 『おやつ』ってなーに?

あっ……


翡翠

Hisui

ある時、森の中の忘れられた屋敷にふらりと流れつき、旅館《とまりぎ亭》を始めた女主人。旅館を切り盛りしつつ余暇に小説を書いているが、ついつい本業との作業時間が逆転しがち。普通の人間のフリをしているものの、いくつ年を重ねても見た目が変わらない。ニオとゴイちゃんのことは、どちらも自分のペットだと思っている。

ニオ

nio

翡翠に拾われた猫。少なくとも拾われた時はごく普通の子猫だった。《とまりぎ亭》の客から可愛がられるうちに少々育ちすぎた(?)ようだ。天真爛漫、自由奔放で《とまりぎ亭》の人々や周囲の自然を絵に描くのが好き。ゴイちゃんのことを自分のペットだと思っている。

ゴイちゃん

Goi-chan

翡翠が《とまりぎ亭》を始める前から屋敷に住みついていた妖鳥。《五位の火》という由緒ある妖怪なのだが、ゆるい見た目のせいで誰にも畏れられていない。今はニオの頭の上が定位置で、ニオが大きくなりすぎた(?)のはおそらくこいつの妖気のせい。自分が翡翠とニオの面倒を見ていると思っている。


文:雪丸仟 絵:まんごープリン


とまりぎ亭とは


ここはとある隠れ宿《とまりぎ亭》。閑静にして風光明媚、絵描きや作家が好んで長期滞在しアトリエとしても利用するその旅館は、一人の女主人と一匹の猫、そして一羽の鳥によって切り盛りされている――

翡翠~、ニオ、おなかへった……

今朝カリカリ食べたでしょう?

でもおなかへったんだもん。こないだお客さんが言ってたよ? 朝ごはんと晩ごはんの間には“お昼ごはん”っていうのがあるんだって。ニオもお昼ごはん食べたい。

(むむ。ついに気づかれてしまいましたか。この様子では、おやつの存在に気づかれるのも時間の問題ですね)

仕方ないですね。特別に私のおやt……じゃなかった、とっておきのたいやきを分けてあげましょう。ゴイちゃんと半分こして食べるんですよ。

わーい! ニオたいやき大好き。

いいのか翡翠。「ニオがこれ以上育ったら困る」と言ってたじゃないか。

もう手遅れかもしれません。昨年拾った時は確かに、どこにでもいる普通の子猫だったのに。

文字通り猫っ可愛がりしすぎたな。あちこち立派に育ってしまって。

育ちすぎでしょう。もはやカロリー制限でどうにかなる次元でしょうか、これ。

そもそも生物学的にありえるのだろうか。

流暢にしゃべる鳥の妖怪に言われても……

十年来の付き合いで今更そこをツッコむのか!?

じー……っ。

む……? どうしたんだニオ、そんなに見つめて。

ニオ賢いから気づいちゃったんだ。ゴイちゃんとわけっこしたらお昼ごはんはたいやき半分だけど、ゴイちゃんを食べればごはんはたいやき一匹におかず付きだって……じゅる。

ひ、翡翠、翡翠~~~っ!!!? 助けてくれ、吾輩ぺろりといかれちゃう。

やれやれ。いいですかニオ、今ゴイちゃんを食べたら、ぺろりとおかず一食分です。だけど我慢してもっと大きく育てれば、二食分にも三食分にもなるんですよ。

そっかー、なるほどなー。じゃあ今は我慢する! ニオもごはん食べておっきくなったもん……ね…?

あ……え……やっぱりこのたいやき、返す……ね……

違う違う違う。食べないから。ニオはおかずじゃないから食べていいんですよ。

(吾輩は!?)

よかったー。じゃあほら、はんぶんこしよ? めりめり~。

吾輩そこそこ長く生きてるけど、たいやきをはんぶんこするとき背中から裂いて二枚におろすやつ初めて見た。

たいやきの頭としっぽどっちかしか選べないなんて、そんなザンコクなことニオにはできないよ。

ニオはひよこ饅頭も躊躇なく眉間から割りますものね。私にしてみれば、そちらのほうがよほど残酷ですが。

そもそも吾輩の目の前で鳥の形のお菓子を嬉々として食べることに心は傷まないのか?

はーい、ゴイちゃんの分! ニオのためにいっぱい食べて大きくなってね? おいしい?

う、うむ。うまいぞ(とんでもない問題が先送りされただけのような気がする)。

えへへ、ニオもおいしい。

……しかし、食費の問題は実際深刻ですね。もともと一人と二匹の計算だったのが、二人と一匹になってしまったわけですから。

宿泊料を値上げするわけにもいきませんし、何か方法があるといいのですが。

――どうやら来客のようだぞ。翡翠、先のことを悩むより、まずは目の前の仕事からだ。

ごめんください。

ようこそいらっしゃいませ、《とまりぎ亭》へ。当亭の主人、翡翠がご案内をつとめさせていただきます。本日はご宿泊をご希望でしょうか。

ええ。ちょっと事業のための人を集めにこの辺りに立ち寄ったんですがね、なかなか見つからなくて。今夜はここで一休みにしようかと。

ねぇねぇ、お客さま。お客さまはどんなお仕事をしていらっしゃるの?

ゲームを作るお仕事だよ。うーん……美少女ゲーム、と言ったらわかるかな?

…………?

要するに、みんなのオカズを作るお仕事だな。

へぇ~、お客さますごい!! わたしニオ、こっちはゴイちゃん。ゴイちゃんはニオのオカズなの。

へ、へぇ……いいんじゃないかな。性癖というのは本当に奥が深いね。

美少女ゲーム……というと、イラストレーターやシナリオライターをお探し、ということでしょうか。

ええ。できればディレクターやスクリプターも。いい作品を作りたいんですが、人手が足りなくて。

そういうことでしたら、ご宿泊以外でも当亭がお力になれるかもしれません。

《とまりぎ亭》は開業以来、縁故ある創作家を招き、制作に打ちこんだり、あるいはひととき羽を伸ばすための長期逗留所としてご利用いただいております。

現在当亭には、ゲーム制作のお仕事で知り合われた方々が互いにお誘い合わせのうえ逗留されています。

差し支えなければ、当亭が仲介してご紹介させていただきますが、いかがでしょうか。

本当ですか!? それは助かります。

ニオ、お仕事を紹介していいか皆に聞いてきてくれますか?

はーい。

では、お部屋にご案内しますので、ご依頼内容についてご検討ください。

お決まりになりましたら私、翡翠までお伝えいただければ承ります。御用の際にはこちらのアドレスからお呼びつけくださいませ。こちらから各作家に取り次がせていただきます。

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同時に複数の作家にご依頼になりたい場合は、《とまりぎ亭》受付宛でご相談いただけますと幸いです。

おまたせ! 今おしごとを受け付けてる人の名簿を持ってきたよ! ニオ、えらい?

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いただいたご支援は逗留作家のサポートに充てさせていただきます。

ご案内は以上となります。ご質問、ご要望などございましたら、《とまりぎ亭》受付までお問い合わせください。

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それではどうぞ、ごゆっくりお過ごしくださいませ。

ありがとう。これから部屋でのんびり依頼内容を検討させていただきます。

……お仕事できたら、いっぱいたいやき食べられる?

ああ。いっぱいおやつを買ってもらえるといいね。

……? 『おやつ』ってなーに?

あっ……


翡翠

Hisui

ある時、森の中の忘れられた屋敷にふらりと流れつき、旅館《とまりぎ亭》を始めた女主人。旅館を切り盛りしつつ余暇に小説を書いているが、ついつい本業との作業時間が逆転しがち。普通の人間のフリをしているものの、いくつ年を重ねても見た目が変わらない。ニオとゴイちゃんのことは、どちらも自分のペットだと思っている。

ニオ

nio

翡翠に拾われた猫。少なくとも拾われた時はごく普通の子猫だった。《とまりぎ亭》の客から可愛がられるうちに少々育ちすぎた(?)ようだ。天真爛漫、自由奔放で《とまりぎ亭》の人々や周囲の自然を絵に描くのが好き。ゴイちゃんのことを自分のペットだと思っている。

ゴイちゃん

Goi-chan

翡翠が《とまりぎ亭》を始める前から屋敷に住みついていた妖鳥。《五位の火》という由緒ある妖怪なのだが、ゆるい見た目のせいで誰にも畏れられていない。今はニオの頭の上が定位置で、ニオが大きくなりすぎた(?)のはおそらくこいつの妖気のせい。自分が翡翠とニオの面倒を見ていると思っている。


文:雪丸仟 絵:まんごープリン